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新潟地方裁判所 昭和38年(レ)63号 判決

控訴人 今井鹿蔵 代理人 棚村重信

被控訴人 日本電信電話公社

訴訟代理人 河津圭一 外六名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、本事件についての当裁判所の事実認定及び法律上の判断は、次に附加詳言するほかは結局何れも原判決理由に記載の通りであるから、それを引用する。

(一)  控訴人は昭和三七年八月二四日新潟地方裁判所長岡支部昭和三七年(ル)第二三号、(ヲ)第三一号電話加入権差押命令並びに換価命令事件における、見附電報電話局電話加入権第六一番競売手続で、同電話加入権を六万円で競落して即時代金を納付したこと、同電話加入権には既に訴外新潟県信用紀合のため極度額一〇万円の質権設定登録があつたこと、同電話加入権につき被控訴人から控訴人に対してその譲渡の承認がなされていないことはいずれも当事者間に争いない。

(ニ) 電話加入権が質権の目的となつている場合、当該電話加入権に対する強制競売手続がなされたとき、競落によりその質権が消除されるか否かという点については、要するに、電話加入権上の質権は留置的作用も目的物利用作用も伴わず、実質的には抵当権と同一であるから、それについての取扱いを定めた民事訴訟法六四九条一項、二項と同様の取扱いをすることが本来望ましいと解されるが、電話加入権質については同法その他に何等その旨の規定がなく、結局解釈としては債権に対する一般の例に依るほかない。然るときは、質権附電話加入権はその質権附のまま強制執行の日的とされ、換価命令に基く強制執行手続において競落された場合もその質権は依然効力を失わず競落人は質権附の電話加入権を取得すると解さざるを得ず、従つてその質権は競落によつても消除されないと言わざるを得ない。

(三)  被控訴人に対し、電話加入原簿上に控訴人名義の加入者変更登録をするよう求める旨の控訴人の主張は、これが控訴人より被控訴人に対して、電話加入権譲渡承認を求める趣旨ならば(電話加入権質に関する臨時特例法八条、公衆電気通信法三八条、電信電話営業規則二二四条参照)、電話加入権質に関する臨時特例法八条の解釈上、この規定が強制執行による加入権の譲渡にも適用あるとすれば強制執行制度を無意味にするから、同条には強制執行の場合は含まれないと解すべき余地があるのであるが、原判決説示の通りその主張立証の全趣旨から考えて、控訴人が被控訴人に対し右の譲渡承認を求める趣旨ではなく、電話加入原簿への加入者名義変更登録手続を求める趣旨と解されるのである。してみれば原判決判示の通り電話加入原簿は被控訴人の内部事務処理の方法として設けられたにすぎないと考えられるから、それへの名義変更登録を求める控訴人の右主張は結局法律上の利益を有しないと言わなければならない。

二、以上の次第であるから、控訴人の請求を容れなかつた原判決の判断は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 吉井省己 竜前三郎 渋川満)

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